風が嵐に変わる前に村を出た。
習わしに従えば神事として他の人も同行するが、最期の頼みとして取りやめてもらった。
今の風の様子では、山頂を降りる頃の方が危険になるからだ。
山道を中腹まで登る頃、風は嵐に変わったが、切り立った岩壁の御蔭でふらつきながらも脚をすすめることはできた。
岩壁にすがりながら山頂を目指す。
滝のような雨の中を進むと突然風が強くなり、見上げれば空が開けていた。
渦巻く黒雲と叩きつける雨の中に伝え聞いた通りの祭壇が見えた。
稲妻が閃き山頂をかすめる。
その光は岩棚に降りた竜を照らし出した。
それが私を待つ神様のはずだった。
しかし神様は私には目もくれず、嵐を切り裂くように咆哮を上げていた。
私には神様が一本の木を守っているように見えた。