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気が付けば手足は青白い煙をあげていた。
たなびいていた煙はいつしか自分の周りに立ち込めていた。
熱に満ちていた身体はもろくなり、風に削られるように漂っていた。
何かが胸に触れた気がした。それはかすかな感触だった。
しかし、力尽きた身体を押し戻すには十分だった。
倒れ込むようにその場に力尽きる。
上げた視界に見えるのは、真っ白な世界。
最後に胸に触れたものは何だったのだろうか。
ここはどこだろうか、自分はなぜここにいるのだろうか、この先自分は…。
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燃え尽きることは単に熱量がなくなることではない。
もっとも厄介なのは、燃え尽きた身体から広がる煙によって、旅の指針である星さえも見えなくなってしまうことだ。
目次:
作品の概要
テーマ
燃え尽き症候群
モチーフ
煙とゴールテープ
コンセプト
※「テーマ(目的)」+切り口
ただ走るだけではなく、自分がなぜ走るのかを考えよう。走ることが目的ではない。速く走ることは手段でしかない。燃え尽きるな。常に燃料を補給するんだ。目指すシリウスはいつも遠くで輝いている。
挑戦課題
心象風景方向での制作
今回の反省
夢中で取り組んでいたことがあるとき突然嫌になってしまう。いわゆる「燃え尽き症候群」をテーマにして描きたいと以前から思っていました。
イメージはあったのですが、普段はキャラクターを中心とした制作をすることが多いため、要素が少ないと画面として物足りないかなと思い手を付けていませんでした。
「幻想藝術考12」展へのお誘いがあり、出展作品を検討した際にイメージを思い出しました。
以前はキャラクター性を追加する方向で再検討と考えましたが、やったことがないことをやってみようと考えていたので、「これまでやらなかった心象風景を中心とした制作」ということで実験的に制作してみることにしました。
今回は制作の中での気づきを中心に書いていきたいと思います。
要素がシンプルな画面では質感やニュアンスをより大切にする
ラフを描いている段階では要素が少ない分、制作時間も短いだろうと考えていました。
実際には制作時間はあまり変わりませんでした。
振り返ってみると、構成要素が少ない分、一つ一つの要素が目に映り、その変化により敏感だったように思います。
イメージとの小さな差が気になるため、特に煙の描き込みではグラデーションの変化を模索して描き直すことが多かったように思います。
また、要素がシンプルだとより質感を描くようにしないと物足りなさを感じてしまいます。同じ要素の中でも見せたい部分を整えるのに時間を掛けていました。
描く要素にもよるとは思いますが、自分が納得できる画面にするまでには、構成要素がシンプルでも同じくらいの描き込みが必要そうです。
制作の予定を立てる際に気を付けていきたいと思います。
そのものが発光源になるものは覆い焼きカラー効果でつくる
炭化の表現としての残り火の表現には、引き続き『色塗りチュートリアル』で学んだ補助光の作り方を使っています。
今回は補助光レイヤーを調整後、覆い焼きカラー効果で合成しています。
これまで覆い焼きカラーは彩度と変化が強すぎる印象があり、使うことを避けていました。
改めて使ってみると、炎などそれ自体が発光源になる要素を表現する場合にあう効果と感じました。
振り返ってみると、これまでは覆い焼きカラー効果を広い範囲で適用してしまっていたため「強すぎる」印象になっていたのだと思います。
発光源を画面の広い範囲で配置する機会はそれほど多くないと思います。
これまでに避けてきた効果も補助光として改めて考えてみるのは面白いかもしれません。
新しい視点を手に入れられたことは今回の収穫ですね。
まとめ
キャラクター性を排した画面で制作をしてみると、要素の小さな変化や質感に敏感になるというのは発見でした。
キャラクター性を排したという点では静物デッサンに近いと思います。
ただ、静物デッサンでは自分の興味を引き続けるという点で難しい時もあります。
その点、心象風景を下地にした方が自分の興味をより引くことができ、制作に集中できるように感じました。
制作の中で質感を納得する形でとらえられるととても楽しいです。
質感の研究をするときは、シンプルなキャラクターを配置すると考えるよりも、思い切ってキャラクター性を排除してしまう方がよいかもしれません。
制作の選択肢を増やすことができたので、実験的な制作としては良い結果になったと思います。
皆さんも、普段キャラクターを中心とした制作をしているのであれば、選択肢を広げるために一度試してみてはいかがでしょうか?
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って