その貌を作るものが悪意であれば…
そう願わずにはいられなかった。
仲間の武器がひしゃげる音の中、場違いにも思い浮かべたのは年の離れた妹の顔だった。
頭の奥底で音が鳴る。
絶望的な現実と、重なるはずのない、久しく思い出すこともなかった郷愁。
噛み合わないその二つが強引に擦り合わされ、悲鳴に似た軋みの音が頭の深部を捕えていた。
誰も彼も声すら上げないのは、体にまとわりつく、糸の力だけではないのだろう。
目次:
テーマ
心を絡めとる糸
モチーフ
アラクネ(蜘蛛女)
コンセプト
※「テーマ(目的)」+切り口
命のやり取りの中で見る笑みへの恐怖は、含まれる悪意の量と反比例して増大する。
挑戦課題
『色塗りチュートリアル』を参考にした光の着色の実践。
今回の反省
以前に「蜘蛛の死神」という作品を描いたのですが、描いているうちに画面の方向性が当初考えていたものからズレていきました。それはそれで面白かったのですが、もともと予定していた暗い画面でもそのうち描かこうと思いながら最近に至ります。
「現像藝術考12」展へお誘いいただいた折に思い出して制作をすることにしました。雰囲気があっていると思ったのと、少し前に読んだ『色塗りチュートリアル』の補助光の作り方の実践の機会になればと思いました。
この補助光の作り方には手ごたえを得ましたので、今回はそこを中心に書いていきたいと思います。
『色塗りチュートリアル』で学んだ補助光の作り方とは?
今回実践した補助光の作り方の概要は下記になります。
- キャラクターを描き上げる
- キャラクターのレイヤーを統合する
- 統合レイヤーをコピーする
- コピーしたレイヤーを調整し、補助光の輝度・色味に調整する
- 調整したレイヤーにマスクを掛け、補助光となる部分だけに適用する
この方法は、ある程度描写が整い完成した絵に使うのが効果的です。
描画対象に差す光源に使うのではなく、補助的な照明やリムライト(逆光)など、小さな部分に強い光が現れる効果を表現したいときに使うとよいでしょう。
『色塗りチュートリアル』/P78
本作は『色塗りチュートリアル』に倣い、逆光の画面で制作しました。
このイラストを元に輝度と色味を調整して逆光レイヤーを準備します。あとはレイヤーマスクで一旦隠し、逆光が強く当たる範囲のマスクを削ってなじませていきます。
逆光のレイヤーはオーバーレイにしています。
この補助光の利点
後から強い光を別レイヤーで入れる方法はこれまでも試したことがありましたが、光を別に描き込んでいくと元のイラストの濃淡が飛んでしまったり、色味の変化が思い通りにいかなかったりと調整に時間がかかっていました。
今回の方法では統合したイラストをベースに光の色味を作るので描いた濃淡も、色味の変化もそのまま活かされます。調整レイヤーを使えば、適用後に調整もしやすいので、元のイラストの雰囲気を壊しにくいと感じました。
また、この方法は同じ書籍で紹介さえれていた「SSS」の効果も作りやすいとわかりました。
Subsurface Scattering(表面下での拡散)とは?
透明または半透明な材質の内部は、表面を透過して放ってきた光が拡散して、明るくなります。
光が表面の内部で拡散すると、影の部分が明るくなる傾向があります。
…(中略)…
その中でも人の肌が最も代表的な例です。
『色塗りチュートリアル』/p138
人の肌で光が当たる部分と影の境界付近で彩度の高い色が見えるというものですね。(Subsurface Scattering:以下SSS)
SSSの効果を求める場合は影には青みを入れ、光には元のイラストから赤味を増した状態でオーバーレイに設定するのが良さそうです。
統合したイラストから補助光を作るときの注意点
実践してみると今回の補助光の作り方は元のイラストに描かれた光の強化であるということが分かりました。
つまり、輝度の高い部分はより強化されますが、もともと光を入れていないところに光は入らないということです。
補助光のレイヤーを作る前に、補助光のあたる範囲の明暗はしっかりと設計しておいた方がより効果が高いと思いました。
今後の課題
今作で一番良いと感じたのは光を適用したときに筆跡と濃淡への影響が少ないという点です。
書籍では補助光として使うことが最適とされ、逆光での作例だけが載っていましたが、SSSの出かたを見ていると、フォアライトでもSSSの効果が出るのではないかと思いました。
すでに失敗されたから書籍では乗せていないのだと思います。失敗に終わるかもしれませんが、それも勉強になると思いますので、次はもう少し明るい画面でSSSの効果を試してみたいと思います。
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って