その場所は、脆く鋭い場所だ。
吹き込む風雨で崩れ落ちる岩肌は、大きな顎門の如く牙を剥き、落ちて突き刺さった片鱗は、鋭い剣の列を成している。
そんな風景が山を貫く穴道として続く場所だ。
どれ程気をつけていても、体に無数の傷がつく。服や装備を変えれば良い人と違い、獣は嫌がって近づかない。それは抜け道としては好条件だからだ。
ゆえに常用はしない。が、まぁ報酬次第では通ることを考慮する。その程度には通り慣れてはいる。
後少しで出口が見えると言う時、思わず脱力し足を止めた。崩れた壁の隙間から差し込む西陽の向こう、黒い塊が道を塞いでいることに気づいたのだ。
―岩が大きく崩れたか。まったくついてない。
嘆息交じりの悪態をつく。
幸い、ここの岩は脆い。手持ちの道具でとりあえずの抜け穴は作れるだろう。
骨が折れるし、装備の新調は必至か。
それでも、依頼の時間に間に合えばの話。
戻るよりは速い。
止めていた足を進めると、塊の表面にすっと四つの裂け目ができた。
それが相手の目だと気づくのと、敵が動き出すのは同時だった。
刃の通らない敵ではない。ただ、厄介なのがどれだけ切り付けても怯まない。そして、突き立てた刃は自分の力では抜けなかった。
相手の特性に気づいたのは、手持ちの武器のほとんどが喰われてからだった。
周囲にあふれる刃が自分の手で振るえないものかと、願わずにはいられない。
握ることはできない、脆く鋭い足元の岩を蹴り飛ばしながら、最後の一振りを鞘から引き抜いた。
目次:
テーマ
断片
モチーフ
ヤモリ+シャチ
コンセプト
帰投する夕暮れの渓谷で強敵と対峙する
挑戦課題
- 始めから色を付けて制作
- ドライメディアブラシでの制作