映画「よあけの焚き火」を観てきました。
知人に勧められて、内容を聴いてみると狂言方の親子の話とのこと。正直狂言はよくわからないので、それだけでは興味を持てなかったのですが、本物の狂言方の親子が、主演としてそのまま出演しているということを聴いて興味を持ちました。
映画を観た感想で大きいものを1つ上げるなら、「狂言は別の世界の話ではなく、自分の世界と地続き」ということです。
特に印象的だったのが、散歩の途中や夕食の際に、狂言のセリフを使って、二人が遊ぶシーンです。昔の言葉を使っているので、内容がすべてわかるわけではありません。しかし、二人の様子がとても楽しげで、自然で、映画の中で一番人間味を感じました。
街で見かけるような親子が、狂言のセリフで遊んでいる。そして、日常の言葉よりも、このシーンの方が、より感情が伝わってくるのを感じると、狂言は自分が考えていたよりも、もっと身近なのかもしれないと思いました。
知識としては、自分が生きる現代日本に、伝統芸能を継承している人がいることは知っていましたが、どこか遠い世界の話と考えていました。そんな自分が「他の映像を探して観てみるのは面白いかも?」と思えたのは、収穫だと思います。
この映画にはドラマの様な展開はありません。淡々とはしているのですが、ドキュメンタリーという感じもない、不思議な映画でした。
おそらくですが、この映画は観ている側の思い出や知識が、呼び起こされることを前提としているのではないかと思います。
パンフレットで寄せられた感想を見てみると、それぞれの方が、映画を通して、普段世界をどう観ているのかを感想として書かれている印象を受けました。
その方向で、自分が映画を見ながら思考するきっかけになったのが、稽古シーンの一節です。
「個性を殺さず、ただし個性を出させず」
師である父が、弟子である息子へ稽古をつける際の心得の様に響く言葉。
これは、「伝える人によって現れ方は違うが、それぞれの演技の中に、共通して通っているものが芸として伝えたい本質」と言っている様に思いました。
自分は継承というところでは外にいる人間ではありますが、自分の身に置き換えてみると、「なぜ作品を作り続けるのか?」という所にたどり着きます。
最近は技術向上を主眼においていたので、しばらく原点を思い出すことを忘れていましたが、 制作を続けていく上では大切だと思います。ハッとせずにはいられませんでした。
原点を思い起こせば、心に火が灯ります。
自分が前に進めたと思えた頃、また見てみたい映画ですね。
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この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って