吹雪の中を少年が歩いていた。
軽装の革鎧に青のコート。
ここが都市の近くの平原であれば、念入りな市民か、近隣に出かける冒険者に見えただろう。
しかし、少年が歩くのは世界屈指の厳寒で知られる霊峰への道上だ。
吹き荒れる風も、叩きつけられる雪も。まるで白以外の色を纏う少年を否定するように、容赦なく襲いかかっている。
それでも少年はその白い世界こそを否定するかのように、強く足を踏みしめて歩を進める。
身体の力を奪おうとする雪の冷たさも、命の炎をかき消そうとする風の強さも。まるで意に介していないように見える。
実際少年には、雪山の寒さなどどうでも良かった。
―
数日前に失敗した最後の結界破りで、自分の未来は確定した。
これで、粛々とこの地を守り、次の時代へその役目を引き継ぐだけの人生が待っている。
これで、自分の夢は叶うことはなくなった。
話に聞いた世界、文字に思い浮かべた世界。
それを「自分の目で見てみたい」。それはそんなに大それた願いなのだろうか?
これからも人の話としては届くだろう。まとめられた文章としては目に映るだろう。
ただ「自分の目」でそれを見ることはないのだ。
これまでと同じ様に。
―
だからせめて、視てやろうと決めた。
自分の運命の姿を。それを強要する元凶を。
思考に燃え移ろうした怒りの熱に、耐えきれず少年は一度脚を止め、大きく息を吐いた。
吐き出された白い息をかき消す様に、一層強い風が吹き付ける。
バタバタと叩きつけられる雪を、掲げていた片腕の下から眺めていると、不意に風と共に音が消えた。
ようやく吹雪が止んだかと、細めていた目を開けた少年は自分が影の中にいることに気がついた。
―
雲間から差し込む陽光と共に、まばらになった雪が静かに舞っている。
束の間の安息を与えてくれる陽光と、ひどくゆっくりに見える雪の光を目に映しながら、厳寒の吹雪をものともしなかった少年は、いまさら氷像の様に動かなかった。
―
少年を包む影の先。
巨大な青い竜が、静かに少年を見つめていた。
目次:
テーマ
#Parallelstory
モチーフ
- シオン・セルアスター
- 宿命の凍竜
コンセプト
確定した未来。あるいは宿命との邂逅
挑戦課題
- 大きさの描画
- ドラゴンの鱗
発見/制作後記
少し慣れてきたのか、今作では鱗をスムーズに描けました。
以前はドラゴンの「立体に沿わせて並べる」のが難しかったのですが、少しは進歩できたのかもしれません。
ただ、描いていて気になったのは、「ただ並べているだけ」ではないかと言うことです。
もっとこう、「かっこいい鱗の並び」があるように思います。多分甲冑などと同じ方向のカッコよさではないかと。資料を見直したいと思います。
カッコよい鱗の描き方、探って行きたいですね。