目次:
本展概
グローバル化、情報化が進む現代では、周りを見回してみたときにそこにあるモノは均質化する方向にある。そこにある閉塞感に疑問を投げかけるように、日本各地で積み上げられてきた工芸や手仕事が独自の表現の源泉として注目を集めている。
本展は日本の伝統工芸・手仕事の技術を受け継ぎながら、新たな作品表現を模索している12人の作家を紹介しようというものです。
― 「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」
新型コロナウイルスのこともあるので、朝早くに出かけて昼くらいに戻る計画で行ってきました。休日でもこのくらい時間をずらすと、人が少なくていいですね。
ここでは展の感想を中心に書いていきたいと思います。
※本展は作品の撮影の許可が出ていましたので、説明には観覧した際の写真をしよう指定ます。
手作業の実物だから感じられるもの
本展で展示されているものは日本の伝統工芸をルーツとする作品です。久しぶりに実物を見て思ったのが「時間を感じる」ということです。
これは見附正康さんの作品と、池田晃将さんの作品で強く感じました。
見附さんの作品の基礎は九谷焼の赤絵細描という技法です。1ミリ幅の中に何本もの線を引けるという説明が示す通り、その模様の細かさに圧倒されます。
池田さんの作品の基礎は漆工芸の螺鈿(らでん)という技法です。螺鈿は貝殻を模様の形に切り、漆で張り付け模様を作っていくというものです。
二つの作品群に感じるのは「緻密さ」です。
それが手作業で作られているからこそ、費やされた時間を感じることができます。その緻密さをつくるために注がれた力を感じることができます。自分の創造を越える途方もなさが見えるからこそ、すごいと感じるのだと思いました。
工芸品の実用面での機能は、現在身の周りにあるモノでも代用可能です。
機能の面で伝統工芸品は生活と地続きになります。
普段接するモノが安価で均質なモノになりやすい現代だからこそ、普段手にしているモノとの差がより強く感じられるのではないかと思いました。
見慣れたものでも形が変わると、見方が変わる
本展を探すきっかけとなった『東大の先生!超わかりやすくビジネスに効くアートを教えてください』の中に、アートは「常識を破壊する工夫」とありました。
この部分を強く感じたのは佐合道子さんの作品と坂井直樹さんの作品でした。
佐合道子さんの作品はテーマである「いきものらしさ」を表現する手段として、陶器の質感が選ばれています。文字だけで見るといきものと陶器がらしさの点で近いとは思えません。しかし、実際に生物の形になっていると、陶器の質感がとても生物らしいと感じられます。
ただ、部分で見てみるとやはりそれは陶器です。
地肌が見せるざらついた感じ、釉薬が掛けられている光沢感。それは生活の中でも目にし、触ったことがある質感です。
それが作品として形を変えることで、いきものの生きた跡に見えたり、いきもの表面のぬめるような光沢にみえたりと、見る側の認識も変化するということが感じられました。この同じ質感でも見え方が変わるという点が「常識を破壊する工夫」になるのだと思います。
見慣れたモノの見方を変えるという点では、酒井直樹さんの作品も興味深いと思いました。
坂井直樹さんの作品は「錆」を素材の一つとしています。
作品の基本は鍛金の技法でつくられた鉄瓶です。それをあえて錆びさせることで錆を魅せる作品になっています。
生活の中で錆は基本的には邪魔ななもので、あまり見たいと思うものではありません。
しかし、観賞対象として置かれると錆びた状態は元の鉄よりもふわっとした暖かさを感じます。これは色合いの印象もあるかもしれませんが、錆を見て暖かいと感じるとは思いませんでした。
見慣れたもの・素材でも見方を変えるというのは「常識を壊す工夫」としては、強い力がありそうです。
まとめ
本展の作品群を支えているのは伝統工芸の技術です。
これまでに見た伝統工芸品の中にも、本店の作品群に使われている技術を見つけることはできます。本展の作品群からは長い年月をかけて積み上げられた技術の新しい魅せ方を知ることができました。
技術そのものに新旧での優劣はないのかもしれません。
むしろ積み上げられた歴史の厚みの分、古い技術の方が強度や魅力としては強いようにも思います。
大切なのは手持ちの技術を持って今をどの様に表現するかではないかと思いました。
技術は引き継がれますが、作者が生きている現在の面白さ・空気感・印象といった実感を一番感じられるのは現在を生きる人間です。
選んだ技術・手法だからできるも、表現できることはなにか?
さらに一歩踏み込んでそれを使って今だからできることはなにか?
この考え方は、作品制作にあったって考えていきたいと思います。
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って