「鴻池朋子 ちゅうがえり」展の作品群から謎を解いていく楽しさを学ぶ

「鴻池朋子 ちゅうがえり」展の作品群から謎を解いていく楽しさを学ぶ

「鴻池朋子 ちゅうがえり」展を見にアーティゾン美術館へ行ってきました。見慣れた展覧会とは少し雰囲気が違ったので、はじめは迷いながら見ていたのですが、途中から面白みが湧いてきました。思い出したのは謎解きゲームへの没入感。行動を通して展示を体験するという新しい視点も得られた展覧会でした。

今回はアーティゾン美術館の「鴻池朋子 ちゅうがえり」展へ行ってきました。

本展概要

本展は年1回の開催が予定されている「ジャム・セッション」展の第1回目になります。

「ジャムセッション」展はアーティストと学芸員が共同して、石原財団コレクションの特定の作品からインスパイアされた新作や、コレクションとアーティストの作品のセッションによって生み出される新たな視点での展覧会の構成をねらったものとのこと。

鴻池朋子さんの作品を見るのは初めてです。ポスターになっている作品に「これはなんだろう?」と強く興味を惹かれました。現代作家さんの作品を見るよい機会だと思い見に行ってきました。

まずは疑問を持てるまで見て回ること

ん?タイトル…解説も…?

見始めてまず気になったことは、作品にタイトルがないことでした。また、作品に添えられている解説もないため、はじめはどう見ていっていいのか迷いながら見ていました。

タイトルがないないという小さな疑問が浮かぶと「他も同じなのだろうか?」と興味がわいてきます。そうして作品を見て歩くと、いくつかの共通点が見つかります。

凧と竜巻が「ちゅうがえり」につながっているのかな?

このこかわいい
このこかわいい

作品のモチーフに顔を使うのはなぜだろう?

目が印象的。なぜこんなに大きな目なのか?
目が印象的。なぜこんなに大きな目なのか?
大きな目の顔は何を見ているのか?
大きな目は何を見ているのか?

生命と竜巻は渦を意味しているのかな?

展示室中央より
展示室中央より

後から思えばこの「作品しかない」という状況が良かったのだと思います。

タイトルや解説があればそれを読むことである程度納得します。つまり、興味が作品1つひとつで満足してしまいます。

タイトルや解説がないことで、作品間のつながりや共通点を見つけようとします。そうして見つけた共通点から仮説を立てることで、さらに興味を持つことができたのだと思います

抽象度の高い作品を見るとき、まずは疑問を持てるまで作品を見て回るのが良いかもしれません。

思い出すのは謎解きゲーム感

本展は作品に関する明確な解説がありませんが、展示室の片隅にインタビュー記事やエスキースがまとめられたスペースがあります。

情報量が目を引くためか、展示室に入った当初は人が多く、結果として作品を見て疑問を持った後になりました。

読んでいくと、疑問や仮説につながる文章が見つかります。その小さな発見はとても楽しく、そこで得たヒントは初見ではよくわからなかった作品に別の視点があったのだと教えてくれます

私は謎解き系のゲームが好きなのですが、作品を見て回るときに得ていたのは同じ楽しさでした。

初めての美術館個展が開催されるという前日、学芸員さんが私に「それでは作品の題名を表記しますので教えてください」と言われた。いうまでもなく、これは美術館でなくとも極々当たり前の質問である。が、設置に集中しすぎていた私の神経は、一瞬その意味が理解できなかった。すごく嫌なものが身体を駆け抜ける。なぜ作品があるのに、言葉にするんだろう?

…(中略)…

文字は、ものづくりという不安定な渦中にではなく、完成したものを対岸から眺める安定した意識の場所にあって、私とはその居場所がまるっきり違った。文字になるとケリがついたような錯覚もあった。人間の感覚の「違い」を大まかに「同じ」箱に入れるという圧倒的な暴力的な快感もある。文字や言葉にすると同時に、多くの感覚を喪失するので、恍惚と…

鴻池朋子『「鴻池朋子 ちゅうがえり」展』~美術館,2020,No.26 スナップ写真、ラフスケッチ 等

作品群は時間経過とともに選別されていきます。整理され、解説が付け加えられていきます。
それはある意味では攻略本を読みながらゲームをやっているようなものなのかもしれません

時間という点では効率的で、理解の点でわかりやすいと思いますが、自分で疑問・仮説を立て謎を解いていくという楽しさは味わえないかもしれません。

未整理の過程の作品も、手記も含めて見て回れるというのは、現代作家ならではだと思いました。

強く印象に残る渦

本展のポスターにも使われているのは「皮トンビ」という作品です。

この作品にもほかの作品にも「巡る」「螺旋」といった渦の要素が感じられます。その感覚を持って出口に設けられていた「竜巻スケール」についての解説は興味深いものでした。

内容は、本店の展示会場は「渦」をテーマに設計された作品の一部だったというものです。

読みながら振り返ってみれば、自分の行動は設計に乗るものだったとわかります。それは誰かの意図に乗せられたというものではなく、作品を見ただけではなく体験したという新しい発見の面白さでした

個々の作品だけではなく、意図を通して作品展という一つの作品にまとめること言うことは、こういうものなんだ。そこまで考えるものなんだ。その学びを得られたことが、本展での収穫の一つです。

この解説は最後に読んだ方が面白いと思いますので、ここでは内容を伏せておきます。

まとめ

まずは見て回り仮説・疑問を持つこと。その疑問を持って作品群を見て回るとより多くの学びと考えが得られること。

作品の見方という点で本展は良い経験になりました。

ただ、今回のように展示室内を時間を掛けて繰り返し回るという見方は、コロナ渦だからというのもあるかもしれません。

現在多くの美術展では時間指定の予約制になっています。内容によっては作品の周りに人が集まってしまい、見て回る、考察するという状況が許されないこともあります。

その点人数が制限されている今は、時間を掛け、作品群を繰り返し見ることができます。

考察をしながら作品を見たい、学びを深めたいという見方をするのであれば、現在の人数制限はむしろ歓迎したいですね。

また、面白い作品に出合えたら紹介したいと思います。

生物を毛皮に加工することは、物語を紡ぐこと
生物を毛皮に加工することは、物語を紡ぐこと

この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って


<参考>

投稿者: 0.1

厚塗りで「存在感や重さ、質感による説得力」のあるイラストを目指しています。 日本では線画をベースとしたイラストが主流ですが、そこから外れたモノもイラストの世界を広げる為に必要だと考えています。「世界観にもう一味試したい」そんなときには、ぜひお声がけください。

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