今回は佐藤 哲さんの『もっと自由に絵を描こう』を拝読しました。
佐藤 哲さんは洋画家です。筆ではなくペインティングナイフで大部分を描かれている様です。筆のような繊細な画面ではありませんが、抽象的で力強い印象です。色の濁りが少なく、鮮やかなのが印象的ですね。実物を見るともっと迫力がありそうです。
副題として「構図の基本を見直して」とあるので、構図の考え方を学ぶ機会になればと思い読んでみました。実際には構図について割かれたページ数は少なく、現在の視点からは読み取れない内容でした。ただ、構図以外に奥行きの考え方について書かれた内容が気になりましたので、今回はその点を書いていきたいと思います。
目次:
立体を立体のまま描くのでは無い。立体を平面に描き直す必要がある
イラストを描く時、ここまでいかに平面に立体を描くかを考えてきました。
そのため、佐藤さんの画面バランスの取り方についてのアドバイスには疑問を感じました。
Q
佐藤 哲『もっと自由に絵を描こう』一枚の檜株式会社,2004年,p.19
実物に近くするために、立体的なものは厚く塗り、空や水などは厚く塗る方がよい?
A
絵(二次元)としては、むしろ逆にする方が絵画的にバランスが取れます。
アドバイスが意図するところは絵具という厚みを作れる画材についての様です。
物体である絵具は重ねれば厚みが出ます。厚みも情報量として見る人に伝わります。
画面の一部を薄くしてしまうと、見ている人は一部にある妙な薄さが気になり、本来見てもらいたかった要素から意識が逸れてしまう恐れが出ます。
同じ面を滑らかに辿り、意図した主題へ導くためには、厚みのバランスを意識的に取る必要があるということですね。
デジタルでは気に留めることがない点ですが、制作の意図を通すために気を配らなくてはならない点として、新たな視点を得られました。
ヴァルール(色価)とは?
佐藤さんの作品群を眺めてみると、印象に残るのが影に使われているマゼンタ(に見える)です。
その意図は「ヴァルールの調整」にあるようです。
ヴァルールは色価と訳されます。色というものは、明るい色は飛び出し、暗い色は引っ込みやすいという性質を持っています。色彩でいえば、赤などの暖色は進出し、青などの寒色は後退するという性質もあります。しかし、同じ寒色でも、青などは純度が高いと進出することもあるのです。
このように二つ以上の色彩の画面上の出入りをヴァルールといいます。
…(中略)…
絵画制作では、三次元である現実を絵という二次元の世界に置き換えるために、ヴァルールの調整が必要になるのです。
…(中略)…
色彩で調整する例
物体の影の部分などを活かすために、現実にはない赤などの色を影に用います。
佐藤 哲『もっと自由に絵を描こう』一枚の檜株式会社,2004年,p.72
佐藤さんは、3次元である現実をいかに平面に落とし込むかという方向で描かれています。配色はナチュラルハーモニーに準じて見えるので、そのまま描くと影の部分は青みが強くなります。つまり、暗部はより後退して見え、画面に不要なへこみができることになります。
このへこみを補うために赤系の進出を利用しているのですね。
このヴァルールの調整については考えたことがありませんでした。
そのまま真似ても、まずうまくいかないでしょうが試してみたい内容です。
うまく背景に応用できれば、主題と背景でより対比を作れるのではないかと思いました。
まとめ
立体を平面に落とし込むためにヴァルールという考え方があることは、ここまで知りませんでした。
絵肌が近い厚塗りであれば取り入れられる考え方ではないかと思います。ここは試作をして、確認してみたいと思います。
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って