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本展概要
戦後の高度成長期、日本という枠を越えて広く国際的に活躍し、今日、多様な地域や世代から高い評価を得るアーティスト6名を選び、その活動の軌跡を初期作品と最新作をつなぐかたちで紹介するというのが本展の概要です。
参加アーティスト(展示準・敬称略)
• 村上 隆
• 李 禹煥
• 草間 彌生
• 宮島 達夫
• 奈良 美智
• 杉本 博司
現代美術の情報を読んでいると、たびたび目にするアーティストの方々の作品を一度に見られる。一人ひとりに踏み込んでいく前に、日本の現代アートの入り口を知るという点ではよい機会になりそうです。
また、本展と合わせて「ヒルズライフ~」の解説を参照するとより展示内容を知ることができると思います。
ここでは特に気になった3名の方について書いていきたいと思います。
村上隆
本展のスタートを切るのが村上 隆さんの作品です。
紹介写真では何度も目にしていたのですが、実物を目にする機会がなかったのでその迫力に圧倒されました。近年の作品である「赤鬼」「青鬼」を見られたのはうれしかったです。
色彩も鮮やかな作品が選ばれているのか、華やかさとお祭り感がすごいなと思っていたら、今回の展示コンセプトには「観光」「おもてなし」といった意味合いも込められている様です。
現代美術には今とココが入っています。イマ、このコロナ禍に何ができるか。ココ、東京で起こっていること、見せるべきものは何なのか?村上隆の答えはこうでした。「僕はやっぱり、This is 東京観光みたいなものにしようかなと思って。」
『HILLS LIFE 103』,株式会社cinra,2020,p.003
村上さんは日本美術を下敷きに、現代のサブカルチャーを作品につなげている方なので、親しみやすく近さを感じます。そのため興味を持ちやすいと思います。
ただ、以前に著書「芸術起業論」を読む機会があり、芸術家とはこんなにも理論的に考え、作品に向かい合うのかと驚いた記憶があります。
ただ、現状では村上さんの著書と作品が自分の中でうまくつながっていません。今回実物を見たことで、思考と作品の繋がりへの興味が強くなりました。
「芸術企業論」は今ほど現代アートに興味がない時期に手に取り、以降改めて読む機会がありませんでした。本展で実物の作品を見られたのは、良い機会になりそうです。
村上さんの作品の後に李 ウファンさんの作品が続きます。
村上さんの作品とは対照的に李さんの作品群には枯山水や禅思想の様な静けさを感じました。作品群の違いに日本のハレとケの考え方を感じます。順路の構成にもそういった意図があるのではないかと思いました。
宮島 達夫
展示室に入ると暗い池のような空間に緑と青の小さな光が無数に見えました。第一印象は蛍だったのですが、光源を見てみると1桁のデジタル数字盤の様です。
数字がゆっくりとカウントアップしていき、9になると消灯。しばらくするとまた1からカウントアップしていきます。
個人的には0が表示されない理由が気になりました。
解説を読んでみると表示されない0は死を意味するようです。
宮島は「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、
『STARS展』アーティスト概要より,2020
1980年代半はからLEDを用いて1から9まての数字が変化するテシタルカウンターを使ったインスタレーションや立体作品を中心に制作を行っています。
0(ゼロ)は表示されすLEDは暗転しますが、これは死を意味し、生と死が繰り返されることが表現されています。
時間という普遍的な概念を扱いつつも仏教的思想やテクノロシーという要素を融合させ、国際的評価を得ています。
テーマを知ってから展示室に入ると、印象が変わります。
その光は生命を表している。
意味をしってから眺めると、その風景は遠くの街の明かりにも見えます。
同じものを見るにしても、自分のもつ情報が変化すると見え方も変化するということに驚きました。
ただ、情報があると見え方が変わるなら、事前情報を持ってしまうと、自分自身の感性が置き去りになりそうな気もします。自分はどう感じるのか?は自分を理解する入口になるので大切にし、その上で作家さんはどう考えてつくったのかに興味を持てるようになりたいですね。
奈良 良知
奈良さんの作品も雑誌などで目にする機会は多かったのですが、実物を見るのは今回が初めてです。
正直なところ絵やインスタレーションを見ている間はあまり面白みを感じませんでした。
しかし、立体物を展示しているスペースではその世界観にグッと引き込まれました。立体作品は月がキーワードの様です。
また、展示室に流れる音楽が世界観を世界観への没入を強く後押ししていると感じました。
ヒルズライフを読むと奈良さんの原点にはレコードのジャケット美術があるとのこと。その音楽とともに作品群をながめられる。特に立体物の間を見て回ると、作品世界の中に入れたように感じます。
「STARS 展」での展示でもわかるように、コレクションの中でもレコードは特に重要なアイテムだ。青森県弘前市で生まれ育った奈良は60年代にFEN (米軍極東放送網)から流れるアメリカのフォークミュージックと出会い、8歳の頃からレコード・ジャケットのコレクションを始めた。美術館が無く画集の入手もままならない情報が限られた環境で、奈良はレコード・ジャケットから美術を学んだという。
『HILLS LIFE 103』,株式会社cinra,2020,p.009
可愛らしさや親しみやすさというキーワードとともに見ることが多かった奈良さんの作品について、それを実感できた展示でした。
まとめ
複数のアーティストの作品が観られるということで、情報量としてはかなり多いとかんじます。知ってはいるけど、作品をまだ見たことがないという方には、現代アートの入り口として十分な展覧会だと思います。
実際の作品を見ることができ、改めて考えたのは「なぜこの表現なのか?」という点です。
作品だけ、思想の表面だけを見ると、現代アートはよくわからないことが多いです。
今回作品を見ることでアーティスの考え方について、興味というフックを見つけることができました。
ヒルズライフを読むとどの作家も作品だけではなく執筆もされているとのこと。機会を作って著書も読んでいければとおもいます。
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って