「和の邪竜」では時間がかかった割に手ごたえを得ることができませんでした。
特に描き込みでの集中力が低下してしまい「自分は描くことが嫌いになったのか?」と思ったほどでした。
手ごたえを得た制作とそうでなかった製作では、何か違いがあったのか?という視点で振り返ってみると、どうやら「ラフ作成時点での完成形イメージの有無」がポイントになりそうです。
ラフはどこまで描くべきか?
自主制作か制作依頼かで描き終える目安は多少変わってきますが、ここでは自主制作を中心に話を進めたいと思います。
結論から言ってしまえば「完成形イメージが頭の中に見えるまで」です。
以下、もう少し詳しく解説していきたいと思います。
目次:
手ごたえを得た制作と、そうでないモノの違いは?
「和の邪竜」の制作を振り返ってみると、色を乗せてからも要素を追加・追加しながら完成形を探っていました。この「ゴールの見えないマラソン状態」が集中力・モチベーション低下の大きな要因になっていたようです。
以前に「アイデアを組み上げる」という内容で記事を描きました。
「和の邪竜」はこの記事で言う組み上げ型の制作です。
組み上げ型の制作がすべて悪いというわけではありません。組み上げ型であっても手ごたえを得られた制作はもちろんあります。
そこで、違いを考えてみると手ごたえを得た制作では、ラフ~カラーラフのどこかで完成形が脳内に見え、イラストにしている場面の前後も脳内に見えていたとわかりました。
「アイデアを組み上げる」の記事を書いた時点では、イメージ先行型と組み上げ型の制作の違いは補強情報の収集タイミングと考えていましたが、どうもそうではないようです。
ラフは何のために描くのか?
脳内での完成形は必須と条件を見直してみると、イメージ先行型と組み上げ型の制作ではラフを描く意味が少し違うように思えます。おおざっぱに整理すると下記のようになると思います。
イメージ先行型:
脳内に浮かんでいるイメージを、画面上に広げるとどうなるか?
組み上げ型:
集めた情報を組み合わせると、画面上に何が見えるか?
完成形イメージが見えた地点をイラスト制作のスタートと考えると、イメージ先行型ではスタートラインに立てていますが、組み上げ型ではスタートの位置が分かっていないことになります。
組み上げ型ではまず現在地を探る必要があると考えたほうがいいでしょう。
ただ、過去の制作を振り返ってみると同じ組み上げ型でもスタートまでの距離は違うように思います。
情報を集めた段階で完成形イメージが見えることもあり、この場合はスタート地点の割と近くにいたということになります。ただ、情報を集めた段階では完成形の影も形も見えない場合は、ラフを描きながらスタートの方向を探らなくてはなりません。
ラフを描くと一言にいっても、この段階でのラフは方向を探るための情報の断片です。探索でわかったことを書き溜めていくメモ帳のイメージですね。
組み上げ型で制作を始めるときは、この探索の時間をイメージ先行型よりも多く確保したほうがよさそうですね。
組み上げ型ではラフを描くタイミングが2回ある
「和の邪竜」の制作を改めて振り返ってみると、この探索の時間が長くなり焦って先の工程に進んでしまったとわかりました。
時間に区切りを設ける場合も、完成形が見えるかどうかを判断材料にして良さそうです。
いくらラフを描いても完成形イメージが見えない場合、探索の方向がよくなかったとしてそこまでのラフは破棄し、改めて方向を探ったほうがよいでしょう。
このスタート地点を探している段階が「大ラフ」と言われる工程なのだと思います。そう考えると描きだす前に完成形イメージが見えているイメージ先行型や、情報を集めた時点で完成形イメージが見えた組み上げ型であれば大ラフの工程は飛ばしてもよさそうです。
考えを整理してみるとなんとも当たり前の工程になりましたが、自分の中にしっかりとした定義ができたのは今回の反省での収穫ですね。
個人的・感覚的なラフ完成のシグナル
私は完成形イメージが脳内に見えると、画面や情報を整理していく中で描いている画前後のストーリーや、キャラクターのセリフなどが頭の中に次々に浮かんできます。
この状態になるとその先の工程もスムーズに進むので、ラフ・カラーラフ完成の目安と考えているのですが、ここは個人的な感覚の部分が大きいように感じるので参考までに。
ただ、製作を繰り返す中でうまくいったときに共通する感覚というのは、振り返っておくのがよいと思います。その感覚を再現できる様に作業工程を整理していけば、良いイラスト制作を続けていけると考えます。
制作依頼の場合は?
先に制作依頼の場合は描き終える目安が多少変わると書きました。
制作依頼の場合には必ず相手がいます。ここが大きな違いになります。
ラフ完成の目安として「完成形イメージが脳内に見えること」は同じです。加えて「かかわる人全員で完成形イメージを共有できたか」がラフ完成の目安になります。
その点、ラフ(カラーラフ)の精度を、普段よりも上げる必要も出てきます。ここはイラストを使った会話ととらえ、ある程度相手に合わせる必要があることを前提にするとよいと思います。
追伸
「完成形イメージがスタート地点」という考え方は、『7つの習慣』の中で紹介されている習慣の一つ「すべての物は2度作られる」からヒントをもらいました。
「和の邪竜」の制作の少し前にオーディオブックで聞き直していたので、反省の中で思い出してみると今回の制作風景そのものでした。
この習慣の具体例として家の設計が挙げられています。
すべてのものは、まず頭の中で創造され、次に実際に形あるものとして創造される。第一の創造は知的創造、そして第二の創造は物的創造である。
家を建てることを考えてみよう。家の設計図が隅々まで決まっていなければ、釘一本すら打つことはできない。あなたはどんな家を建てたいか頭の中で具体的にイメージするはずだ。
…(中略)…
次に、思い描いた家を設計図にし、建築計画を立てる。これらの作業が完了してようやく工事が始まる。そうでなければ、実際に物的に作る第二の創造の段階で次から次へと変更が出て、建築費用が二倍に膨れ上がることにもなりかねない。
『七つの習慣』P157
頭の中で行われる第一の創造が「完成形イメージ」であり、そのあとの第二の創造が「イラスト制作」になります。ここでいう設計図や建築計画が完成形イメージが見えた後のラフ~カラーラフ制作にあたります。
反省をしながら書籍を読み返してみると第一の創造を怠ってしまうと、第二の創造は思ったようにいかないという内容は納得のいくものでした。「和の邪竜」では第一の創造を中途半端にしてしまったため、建築費用が二倍に膨れ上がることになってしまいました。
いろいろな場面で活きてくる考え方だと思いますので、ここで紹介させていただきます。
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って