「許せない」のは仕組みだから。しかし、人間だけはその先の行動を自分で選択できる

書評:『人は、なぜ他人を許せないのか?』中野 信子 (著)

裏切り者や、社会のルールから外れた対象を罰することに、人の脳は快感を覚えるようにできている。ただ、それが人の脳の仕組みといっても、他人を攻撃してしまったことを後悔し、自己嫌悪に陥ってしまう人もいる。他人を許せないという脳の仕組みを知ることは、その苦しさを和らげるヒントになるのではないか?というのが本書の概要です。

今回は中野 信子さんの『人は、なぜ他人を許せないのか?』を拝読しました。

中野信子さんは脳科学者をされている方です。

新型コロナウイルスの影響でネガティブな情報を目にする機会も増えたように思います。そんな中で本書を目にしました。不満が発生しやすい現状、自分を振り返るいい機会だと思い手にとってみました。

人間の脳は生存のための仕組みとして、集団を守るようにできている

そもそも、この本で話題になっている「ルールから外れた人に対する、許せないという感情」は不思議な感情です。その感情が現れるのは自分に直接被害があった時だけではなく、自分が知っているルールが破られたと感じたときにも現れます。

引用:p5

人の脳は、裏切り者や、社会のルールから外れた人といった、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています。

引用:p120

自分の属する集団を守るために、他の集団を叩く行為は正義であり、社会性をたもつために必要な行為と認知されます。攻撃すればするほど、ドーパミンによる快楽が得られるので、やめられなくなります。

ここで話題にしている「許せないという感情」は人間の脳の仕組みとして共通で準備されているようです。

人間が属する哺乳類の多くは、身体的な脆弱性を抱えています。

個としての脆弱性をカバーするために集団を作ることを基本とし、人間は哺乳類の中でも特にその能力が高いそうです。そのため、集団の維持を優先しようとする脳の仕組みも、他の哺乳類に比べてより強いようです。

これは、怒りをあらわにするところまでいかなくても、バイアス(行動や思考の偏り)という形で普段の生活の中にも現れます

  • 所属するグループ内の人には、外の人に比べて好意的になる
  • 同じ人種の人の顔は見分けられるが、それ以外の人は見分けにくい
  • それまでと違った行動をとるのを見ると、それまでの行動へ戻そうとする

先の2つは集団の内と外を分け、生存のために速い判断を下すための仕組み。最後の一つは一度形成されたグループを維持しようとするための仕組みです。今回話題になっている「ルール破りは許せない」という感情もここに当てはまりそうですね。

この様に人間の脳には集団を作り、それを維持しようとする仕組みが組み込まれています。ただ、これはあくまで哺乳類として見た人間の脳の仕組みです。人はルール違反を指摘することで快感も覚えるのも確かですが、怒ってしまったことに対して後悔の感情を持つこともあります

仕組みがあることは前提としてわかりましたが、この仕組とうまく付き合っていくにはどうしたいいでしょうか?

前頭前野を活性化させ、仕組みが働いたことに気づくこと

脳に仕組みがあるため「許せない」という感情は誰にでも起きます。しかし人は感情を行動につなげるかどうかを選択することができます。その選択のきっかけを与えてくれるのが、脳という機関で人間だけが大きく発達させた「前頭前野」です。

引用:P112

人間は、遺伝子レベルでは98%以上チンパンジーと同じです。残り2%足らずの部分が異なったことが前頭前野の大幅な発達の原因となり、知識や複雑な言語体系を構築させて、人間に特徴的な能力を身に付けました。特に注目すべきなのは、集団であること、つまり社会性の強化、複雑化のために使う能力です。

前頭前野を活性化させるためのポイントは次の3つです。

  • いつもと違う行動をとる
    (違う道を歩く、違うメニューを選ぶ程度でよい)
  • オメガ3の脂質を積極的にとる
    (いつも肉のメニューなら、1つめと絡めて魚メニューへ変えてみる)
  • 睡眠をしっかりとる
    (ぼーっとしていたら、そもそも頭が働かない)

加えて、メタ認知の能力を高めることも重要なようです。

これは、自分の行動を客観的に見直す能力のことですね。この能力が高まることで自分に「許せない」という感情が沸き起こったことに気づきやすくなります。

メタ認知の能力を高めるために効果的な項目としては下記になります。

  • 自分の感情を書き出し、見直す時間を作る
  • マインドフルネスをおこない、思考を見直す時間を作る

文章を書くには論理的な整理が必要です。一回は感情的に書きなぐったとしてもそれをあとから見直し、なぜ自分はそこまで感情的になったのかを見直す機会を作ることで、メタ認知の訓練になります。

マインドフルネスはその中で自分の思考が動き出したことに気づくということを繰り返していきます。日頃からこれを行うことで、仕組みが動き許せないという感情が沸き起こっても、それに気づきやすくなります。

気づくとは何か?自分を俯瞰して見ることができるのは人間ゆえの感覚

前頭前野を活性化させ、メタ認知の能力が高まると、「許せない」という感情が沸き起こった時に「あ、今自分は怒っているな」と気づくことができます。

生物の中でこの感覚を持てるのは人間だけと言われています。自分の感情に気づくことで、感情と行動を直結させずに思考を挟み込むことができます。

「ルール違反だ!許せない!」という感情には、相手が自分と同じルールで生きているはずだという前提がありますが、はたしてそうなのでしょうか?

多くの場合、怒りに任せた行動は望むような結果に繋がりません。

「許せない」という感情は自動的に動くので、ある意味ではリマインダーになります。

「そういえばこの人とはルールを確認していなかったな」と思い出し、必要なルール確認のきっかけにしていければ、望む結果が得られるのではないかと思いました。


この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って


<参考>

投稿者: 0.1

厚塗りで「存在感や重さ、質感による説得力」のあるイラストを目指しています。 日本では線画をベースとしたイラストが主流ですが、そこから外れたモノもイラストの世界を広げる為に必要だと考えています。「世界観にもう一味試したい」そんなときには、ぜひお声がけください。

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