今回は小林真理さんの「能面の見かた」を拝読しました。
面は和の要素・モチーフとして目にすることもあると思います。自分も面=和のモチーフと認識していましたが、いざデザインに組み込もうとしてみると、面についての知識がありませんでした。
本書は能・狂言で使われる面を集めた写真集です。
能・狂言は700年以上も続いている日本の伝統芸能ですが、時代の変化に伴い生活様式や言葉が変化した現代において、鑑賞という点では敷居が高くなっています。そこで、普段は鑑賞をしない人たちにも興味を持ってもらいやすい面に的を絞り、能・狂言の入り口を作りたいというのが、本書の概要になります。
先の通り自分も能・狂言を鑑賞したことはなく、面についての知識もなかったので入門書としてはやさしいと期待して読んでみました。
目次:
能面顔=無表情?
能面顔といえば無表情の代名詞というイメージがあります。
例として使われるのが「女面」に分類される面です。
読み始める前は片手で数えるくらいの数だろうと思っていたのですが、読み通してみると両手では数え切れないほど種類があり、その表情もイメージ以上に多彩でした。そして、来歴を知ることで先の女面の表情が少ない理由もわかりました。
能と狂言の源流は、仏教とともに入ってきた伎楽(面をつけて舞う舞踊劇)です。伎楽は日本での解釈を取り入れ散楽・猿楽(動物の動作を真似たり、曲芸を取り入れた日本の古い芸能)となりました。
散楽の中でも真面目な題材を受け持ったのが能です。
その性格から、能で使われる面は表情が乏しいというよりも、よりリアリティのある感情の変化、表情の細部をとらえたものが多い印象です。
一方、散楽の滑稽な題材・ものまね芸を受け持ったのが狂言です。
狂言の面はわかりやすく誇張されたものが多い印象です。
狂言は基本的に面を使わず、登場人物の感情も人が表現します。そのため人の顔でできる範囲を超えた誇張をするために面が使われているのだと思いました。
伎楽の面は地方によって性格がことなる
ルーツである伎楽についても、伝わる地方によって面の正確に大きな差があるというのが面白かったです。
ここで言う地方は大きく南北に別れます。
北の地方は寒冷地であるため、祭り事は温かい昼間に行われます。
そのため祭自体も祝賀や祝いの儀式の正確が強く、使われる面も善・良な題材が多くなります。
一方南の地方は昼間は気温が高く、動き回るのに適さないため祭り事も涼しくなった夜に行われます。そのため使われる面の題材も夜や闇を強調するように悪霊や夜叉など、悪の題材が多くなります。
気温の差によってお祭りの内容が変わるというのは、新しく知った切り口ですね。日本の文化を調べる際にも参考にしたいと思います。
伎楽と日本神話の意外な関係
伎楽の話の中で日本神話のサルタヒコとのつながりが興味深かったです。
伎楽には治尊という名前の仮面をつけた先導役がいます。この面の特徴は長く高い鼻になります。この治尊の顔の印象がサルタヒコの絵が書かれる際のモチーフになった様です。
サルタヒコはニニギノミコトが地上に降りようとした際に先導役を引き受けた神様です。この説話が伎楽の治尊の役割と重なりモチーフになったというわけですね。
能と狂言、そして日本神話。それぞれ別々に見えていたものにつながりがあることがわかったのは収穫でした。こうしたつながりを知って行くのは調べごとの楽しみの一つですので、機会を作って別のルーツも探って見たいと思います。
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って