今回は富野由悠季さんの『映像の原則』を拝読しました。
富野由悠季さんは「鉄腕アトム」や「機動戦士ガンダム」など数々のアニメ作品で監督・原作を手がけられた方です。
本書を手にとったのは、以前に読んだ『誰でもかんたん!!構図が分かる本』で紹介されていた内容で確認を取りたい部分があったためです。
それは「人は画面を眺める時、右上から左へ視線を動かす」という内容です。
根拠となる内容を見つけられなかったのですが、参照先として本書が紹介されていました。人の画面の見方についてもう少しく知りたいと思い読んでみました。
ただ、読んだ中では画面を右上から見始めるという内容は見つけられませんでした。
ここは残念でしたが、本書を読んでいると画面のどこから見始めるかは特に重要ではないように思いました。
それよりも、鑑賞者が見ている要素が画面に対してどこに配置され、それがどちらに動いているか(静止画ならどちらに動いている様に感じるか)の方が、鑑賞者に与える印象としては重要になりそうです。
ここではその内容が記載されている第3章・第5章の内容を見ていきたいと思います。
目次:
心臓を守ろうとする無意識の心理
『誰でもかんたん!!構図が分かる本』の内容で、上にあるものは下へ移動しそうな印象になるというのは感覚的にわかりやすかったのですが、左右と優劣の関係についてはイマイチ腑に落ちていませんでした。
構図の本などで観る「右が優勢、左が劣勢」というものですね。
本書を読むとなぜそう言えるのかの根拠がわかりました。
舞台の上手(かみて:観客からみて右側)、下手(しもて:観客から見て左側)。
これは経験的に決められたことなのですが、そうなった原因も我々の心臓が左側にあるからで、左からくるものに足して心臓をかばおうとします。防御の姿勢をとります。
逆に右から来るものに対しては寛大です。右利きなら受けやすいということも原因でしょう。
P55
そういう視点から自分の過去の作品を見返してみたところ、無意識にこの考え方に沿っているものがいくつもありました。
また、なんとなくイマイチと思っていたものもこの左右の優劣という点から考えると、自分の伝えたい内容が上記の心理に沿っていなかったのだと言うことがわかりました。
構成をあらためて考える良い機会になりました。
そこにある要素はどこに動くのだろうか?
また、画面上に配置された要素が動きそうな方向というものにも人の心理が働いているようです。
先に左は劣勢、右が優勢という点を上げましたが、ここに動きが加わると印象が変化します。
右から左への動きに対して、人は自然な流れの印象を受けるそうです。そのため印象としても当たり前・無意識などになります。
逆に左から右への動きに対しては、抵抗などの意思や力を感じるそうです。
画面の四方それぞれに要素を配置した場合の動きそうな方向の印象を見てみまししょう。
右上
右から左へ、上から下への自然な流れを強く感じるため、左下へ動きそうな印象になる。
また、勢いが強いためこちらへ向かってくるような印象になる。
左上
左から右へ、あえて動こうとする印象になる。
そこに感じる意思の分、上から下への印象は打ち消され、右に真っ直ぐ進む印象になる。
左下
上下の動きでは終端にいる。
そのため、右に向かって動くような印象になる。
左から右へあえて動こうとする意思の分、力強い印象になる。
右下
上下の動きでは終端にいる。
そのため、左に向かって動くような印象になる。
右から左への自然な流れに流されているため、若干静かな印象になる。
まとめ:青は自然な印象の流れ、赤は抵抗をしめしています
フレーミングに対して被写体がある位置によって、視覚印象の違いが発生することを、物理的に言うところの能率(moment)が発生していると考えられているのです。
映像を演出するうえで、これを無視するのはとても損なことです。
P88
『誰でもかんたん!構図が分かる本』ではものの配置と余白のとり方で動きを予想させる方法が載っていました。そこにもこの心理が働いているのだなと知識をつなげることができました。
イラストで動きを作る際も、このどちらに動きそうか?という心理の概要を知っているとより意図した効果を画面に作れそうですね。
構図は小さな要素を理詰めで積み重ねること
今回構図における左右の優劣は、人の心理抵抗の強弱から来ているということがわかりました。
ただ、これ1つを覚えただけでよいイラストがかけるかというと、それはまた別の話です。
下記は冒頭の言葉で映像についての心構えになりますが、イラストにも同じことが言えると思います。
感性で映像は作れない
…(中略)…
なぜなら、映像というのは”見た目”でわかるようにみえますが、実はかなり複合的な要素が重層的に詰まっているために、”なんとなく見た目のとおり”に制作して作品にしたつもりになっても”思ったように他人に伝わらない”ことが起こるのです。
…(中略)…
感性というのは、映像作品の企画の段階での”ひらめき=思いつき”と最終的に作品をまとめる段階で”直感”を働かせるものであって、映像制作プロセスの途上では、かなり論理的な作業に終止すべきもので”理詰めの仕事”に終始せざるを得ないのです。
そのための基礎になるものが”映像の原則”なのです。
p14
イラストでも画面に何か1つのものをおいて終わりというわけではありません。場面を描くときは配置された要素の関係性が生む小さな印象が積み重なって、画面全体の印象を決めていきます。
キャラクターを含めた要素それぞれをかけることは前提であって、それらを使ってどう伝えたいことを伝えていくか、意図を強化していくか。そこを考えていくことが必要なんだなと強く感じました。
自分が意図したものを伝えるためにも、構図から与える印象を勉強していきたいと思います。
また、映像としての画面の構成についての内容も、続き物のイラストで物語を作ろうと考えた場合にはとても参考になりそうです。その部分は別の機会を作り、読んでみたいと思います。
この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って