「窓の肖像・世界の一端」

「窓の肖像・世界の一端」

書類と書籍を読み終えて現実に戻る。
そんな時、影が忍び寄る様に世界の色が暗くなることがある。

期待される姿には今の自分にはまだ遠く、それに応えるための課題は進むにつれて増えていく。
嫌なわけではない。応えがいのある日々だ。
ただ、そんな日々も繰り返しに思えてしまう瞬間がある。

そんな時は窓を少しだけ開け、目を閉じる。
しばらくするといつもの歌声がかすかに届く。
その歌声を聞いていると、必要以上に身体を緊張させていたのだとよくわかった。

名前はないというその歌が、いつも違うその歌が、幼いころからずっと好きだった。
血のつながりはないけれど、立場も違っているけれど、姉と慕うその人の、姿を追うのが好きだった。

いつも楽しそうに生きる彼女にも、涙を流すときがあることを、恐怖に肩を震わせるときがあることを、触れた指先がなくなりそうな怒りがあることを知った。そしてそんな姿を見せるのは、私を挫こうとする者たちと対峙する時なのだと、後になって知った。

幼いころに一度だけ姉と呼んだことがある。

立場の区切りを大切にしている。そうわかっていたから、努めて口にしなかった呼び名だった。
意識せずに口からこぼれたその言葉に驚き、嫌われるかとうかがった。
肯定の言葉はなかったけれど、その顔はとてもやさしく微笑んでみえた。
その笑顔を見たときにとても安心したことを覚えている。

背丈が追い付くほどの月日が過ぎ、姉が表立って自分をかばう場面はなくなった。
公の場に出る機会も、誇れる経歴も増えている。
それでも、時々姉の笑顔を見たくなる。

踊るように働くその姿を思い浮かべ、ほほが緩むのが分かった。
周りに示しがつかないからと、部屋で待つように言われているけれど、お茶の時間の少し前には姉の姿を見に行こう。

言葉にすればこれは弱さになるだろう。
それでも捨て去ろうとは思えないのは、彼女の笑顔を見るたびに心に火がともるのが分かるからだ。

かすかに聞こえる歌声を聞きながら目を開く。
渡された光に照らされた世界は、目を閉じる前よりもはっきりと見えていた。

「窓の肖像・世界の一端」
「窓の肖像・世界の一端」

作品の概要

本作は「幻想藝術考13」展に向けての制作です。
会場では額装した状態で展示するので額を含めて工夫ができないか?と考えていました。今回はサムネイルと合わせて連作をつくり、窓の内と外とをつなげることを目指しています。

テーマ

窓の肖像

モチーフ

日々に少し疲れた貴族の姫君

コンセプト

※「テーマ(目的)」+切り口

自分で進むと決めた道でも、時には息苦しさに似た疲労を感じることがある。そんなときは決意のきっかけに思いを馳せよう。忍び寄った影が閉じようとしている窓を開けよう。窓の外にある光と風は変わることなく、気分をあらためるにはちょうど良い。

挑戦課題

室内の描画

制作後記

『「手で書くこと」が知性を引き出す』を読んでから、情報整理にジャーナリングを活用しています。ジャーナリングでは普段の自分の思考の先に踏み込めるため、自分の内面の発見につながる感触を得ています。

「内省」の制作では作品世界への踏み込みの甘さが気になりました。作品世界に踏み込めていないと完成させようとするモチベーションが高まらない様に感じます。

オリジナルのイラストの制作では、基本的に自分の内面に作品の世界を見つける必要があります。自身の内面に踏み込むという点からジャーナリングは制作に活かせるのではないかと考えました。

「重要な課題を考えるための耐久型ジャーナリング」というものがあるので、今回はこれを制作工程に取り入れてみたいと思います。

人はモノに興味を持ちにくい

完成に対するモチベーションが落ちている時、確認したいことがあります。
それは画面・場面にストーリーは見えているか?ということです。

ストーリーの近くには、人がいます。

例えモノを中心とした画面でも、そこにストーリーを見ようとすれば、モノと関わった人を思い浮かべるのではないでしょうか?あるいは、モノにも意思があるというように、擬人化して考えるのではないでしょうか?

ストーリーのきっかけは、人を近くに感じられることだと思います。

画面として人を映していても、そこに人を感じられなければ、モノと変わりがありません。これはどんな凝ったキャラクター設定ができていても同じだと思います。

ストーリーの不在という状態は、その中心となる人の不在を意味します。人はモノよりも人に興味を持ちやすいと言われています。そこから考えてもモノしか見えないという画面は自分の興味を引くことができず、結果として完成させようとするモチベーションの低下につながっているのではないでしょうか。

完成形は見ている場合、情報量としては十分なものが集まっていると思います。それでもストーリーが見えないのは、情報がうまくつながらずに拡散してしまっている状態、ストーリーの中心となる人物としての気配にまでまとまっていない状態にあるのではないかと考えます。

分散した情報をまとめるためには、考えることで作品世界にさらに踏み込む必要があります。ただ、ここで問題になってくるのは現時点では興味を持てない画面・世界へ集中しなければならいという難題です。

ジャーナリングはこの集中した状況をつくりやすいと考えています。

ジャーナリングは脳の再起動

今回取り組んだ「重要な課題を考えるための耐久型ジャーナリング」。その手順を簡単にまとめると、下記になります。

・5分の瞑想を行う
・15分のジャーナリングを行う。
・上記を1セットとして4日連続して取り組む


ジャーナリングでは制限時間を設け、その時間内は手を動かして書き続けることが基本です。はじめは作品世界のことだけではなく、日常的に気になっていることや思い付きを書くことになります。しかし、書き出していくにつれ、思い浮かぶものがなくなり、何も書くことのない空白の時間が訪れます。この状態になるとストーリの中心を探すことへの集中力がぐっと高くなります。

なぜか?

普段は思い付きの処理に取られている集中力などの脳のリソースが、ジャーナリングで一旦解放されるのためだと考えられます。気になっていることは脳の外へ追い出したので、残っているのは「作品世界の中心は何か?」という問い一つだけ。しかも使える脳のリソースは普段よりも多い。
ジャーナリングではこの「一つのことを集中して考える状態」を積極的に作り出せるため、作品世界への踏み込みがより深くなるのだと思います。

不要な処理を開放して使えるリソースを増やすことで、結果としての効果を高めるのは、『ライフハック大全』でも取り上げられていた、作業の区切りでパソコンを再起動するトピックスに似ていますね。

ストーリーは完成が見たい欲求を呼び起こす

「完成形が見えること」が制作のスタートラインではありますが、その時点でストーリーも見えていると作品への集中力も高い水準で保たれるとわかりました。作品世界に入り込んで描けている、自分自身が完成を見たいと欲している状態は、理想的ですね。

これまで、完成形が見えた時点でストーリーが見えることが多かったため、ストーリーが見えないときは作品完成までに見えればよいかと思っているところがありました。しかし、作品への集中力の点で振り返ってみると、この考え方は修正したほうが良さそうです。


ラフは描けたのに仕上げようという気が起きない。なんとなくつまらない。そんなときはまだまだ作品世界のことを考え切れていないのかもしれません。

もう考えることがない?それはチャンスです。

ジャーナリングを使って、作品世界へ踏み込むことはより制作を楽しむヒントになるのではないでしょうか。


この断片があなたの星へ続く道を、少しでも照らすことを願って

投稿者: 0.1

厚塗りで「存在感や重さ、質感による説得力」のあるイラストを目指しています。 日本では線画をベースとしたイラストが主流ですが、そこから外れたモノもイラストの世界を広げる為に必要だと考えています。「世界観にもう一味試したい」そんなときには、ぜひお声がけください。

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